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<男女共同参画室取材班が行く!部局訪問> 物性研究所・森初果教授「属性にかかわらず、意見が尊重され、能力が発揮できる環境づくりを」

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2023.7.10

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<男女共同参画室取材班が行く!部局訪問> 物性研究所・森初果教授「属性にかかわらず、意見が尊重され、能力が発揮できる環境づくりを」

東京大学男女共同参画室では、本学各部局における女性リーダー育成に向けた取り組みの最前線を取材させてもらうことにしました。他部局や他大学の参考になれば幸いです。第一弾は、物性研究所の元所長、森初果先生にお話をうかがいました。

「世界全部を数式で表したい!」

-昨年度まで、物性研の所長として女性増加策に尽力されてきました。

「1957年に設立された物性研究所で、教授会のメンバーで女性は私だけでした。日本物理学会は6%、応用物理は8%など、物理分野の学会員はそもそも女性が1割もいません。学生は倍くらいいるのですが、それでも少ない。やはり物理に進む障壁があるのではということは感じるわけです」

「2010年から柏キャンパスの他の研究所と一緒に女子中高生向けの「未来をのぞこう」プロジェクト、2016年から大学学部生、院生向けに「やっぱり物理が好き!」のイベントを実施しはじめました。学会で案内すると、先生方が若い人たちに声をかけてくれます。普段孤立している若手の女性たちが『世界全部を数式で表したいよね!』なんて言って『仲間がいたんだ』と思ってくれるわけです」

物性研究所記事(2)

―女性教員を増やそうとされてきた経緯は。

「組織に色々な価値観を持つ人がいることが重要ということは、ずいぶん浸透してきたと思います。唯一の女性教授の自分も、あと3年で退職します。それが見えているときに、女性がゼロになったら、声が届かなくなると思いました。ファカルティメンバーに女性がいないようなところには、若い人も行かなくなる」

「ただ、今までだって教授陣は採用を公正にやってきて、一度だって女性だからと排除したことはないと思っているわけです。応募が少なかったから、少なくならざるを得ないという話になりがちでした。そこで、まず活躍している女性研究者を見てもらおうと思って、所長のときに、ISSP WOMEN’S WEEK2021という研究会を開催しました」

「物性科学研究領域のダイバーシティも大事ということで、色々な分野から一押しの研究者を推薦してくださいとお願いして数人ずつ女性の研究者を推薦していただき、18人の女性が登壇しました。普段異なる領域を研究している方にも研究の魅力が理解できるよう、イントロで丁寧に説明するということをお願いしたところ、すごく皆さん分かりやすく説明してくださって、理解が深まり非常に面白かったと好評でした。」

物性研究所記事(3)

研究会で、風向きが変わった

―ダイバーシティや女性向けイベントでは関心のある人しか来ないという課題がありますが、あくまでも研究の話をする会だったということですね。

「そうです。今活躍している女性研究者はシャープな方が多く、戦略的にニッチな研究分野を考え抜いて進めている研究者もおられ、他の人がやっていないところで特色ある新しい研究に取り組んでいる方も多いということもあったかもしれません。異なる領域の話を聞けることが非常に実りあり、物性科学にはこれだけ優秀な人がいるということが分かり、女性同士のネットワークもできました。ここで風向きが変わり、女性限定公募の素地ができてきたと思います」

「また、このとき、林香里理事・副学長や九州大の副学長にもお越しいただき、東京大学としての活動方針、そして女性研究者の課題として、例えばLeaky pipe、マチルダ現象という話があるということも、学んでもらえました。30代男性は家庭では男女共同参画が当たり前になっている方も多いのですが、研究の場でも女性がこういうことに困っているのかと分かってもらえ、男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会を作ろうと立ち上がってくれた若手男性教員もいました」

物性研究所記事(4)

「ISSP WOMEN’S WEEK2022は、女性研究者週間として、大学院生や若手を対象にした研究会、女性研究者のセミナー、アンコンシャスバイアスなどのfaculty developmentを男女共同参画副室長の小川先生をお招きして行っていただきました」

なぜ女性限定の公募をやるのか

―女性限定公募を実施するまでにはどのような議論がありましたか。

「教授会でかなり議論をしました。男女共同参画というのは、とても基本的な考え方なのだと、原点に戻って考えるということをしました。ダイバーシティ&インクルージョンは、結果的に学問を発展させることにも繋がるかもしれないけれども、根本は、それぞれの人権が尊重され、人間が人間らしく生きるために必要な考え方のだということを議論しました」

「物理の人たちは現象を一般化して説明したい、原理原則を見つけたいというところにモチベーションを感じる人が多く、ダイバーシティ&インクルージョンの本質がどこにあるのかという議論になりました。その結果、「ご利益」があるからではなく、多様な属性の方々すべての人権が尊重されて、誰もが組織に参画でき、能力を発揮する機会が与えられるよう、障害があれば取り除き、環境を整えることが重要であると議論しました」

―多様性は「パフォーマンス」を上げるためということが強調されがちですが、人権のためとの議論をされたのですね。

「その方の属性にかかわらず、意見が尊重され、能力が発揮できる環境づくりは、人間が豊かに生きることのために必要だと思います。組織が単一化されることには危機感を感じます。いろんな人が参画できるために、今は女性限定公募が必要かもしれないということで、意見が一致したと思います」

「女性限定公募をすることに対しては意見が一致したものの、目標の数値設定ではまた喧々諤々の議論がありました。人類は半々なのだから半分が女性になることを目指すべきだとか、3割がクリティカルマスだからとか、いやまずはとにかく目標はともかくはじめようという意見など様々な意見が出ました」

新しい風が吹いている

物性研究所記事(5)

―若手男性からの反発等はありましたか?

「若手男性は複雑な心境かもしれません。これは女性限定公募だから僕出せないんですよねと言われると、私も胸が痛いです。でも長い歴史の中で、男性と女性が半々で、能力の差が見られないにもかかわらず、日本の物理学分野には女性が約6%とかしかいない、そこには見えない壁があって、そうなっている。この不平等を一回是正しないといけない、そのためのアファーマティブ・アクションを行うということで説明しています」

「いざ女性限定公募進めようと教授会で決定してからは、1人だけではなく若干名取ることが大事だということで、1つは部局、1つは本部支援のポストにしようと決めました」

―女性限定公募の効果はどうでしたか。

「結果的に、全分野からとても優秀な方々が応募してきて下さって、申請書のどれひとつとっても、素晴らしいものでした。面接を何度も実施し、教授1人、准教授1人を採用しました。あまりにも能力の高い研究者がたくさん応募してきて下さったので、この機会に3人目をとりましょうという話もあったくらいです」

物性研究所記事(6)

「現在、女性教授1人、准教授1人、助教3人と女性が増えてきています。研究所内で歓送迎会、ボウリング大会、音楽の夕べ等などいろいろなイベントがあるのですが、全員が楽しむイベントについては、夜出にくい人もいるので昼のイベントも考えたほうがいいのではという意見が出るなど、新しい風が吹いています」

「グッドプラクティスとして取り上げていただくということですが、むしろこれからだと思っています。女性が増える中、もちろん男性も含めて、色々なライフイベント等が発生した場合でも、研究を続けていく姿が自然にみられると良いと思っています」

物性研究所記事(7)

2023年6月19日取材・柏キャンパスにて

聞き手:小川真理子・中野円佳

文・写真:中野円佳

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