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イベントレポート「国際女性デー記念 女性研究者キャリアアップ支援FDセミナー 女性研究者育成の課題と方策:欧米での経験に学ぶ」

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2023.5.23

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イベントレポート「国際女性デー記念 女性研究者キャリアアップ支援FDセミナー 女性研究者育成の課題と方策:欧米での経験に学ぶ」

 2023年3月10日(金)、東京大学大学院経済学研究科附属 金融教育研究センター(CARF)と東京大学男女共同参画室の共催で「国際女性デー記念 女性研究者キャリアアップ支援FDセミナー 女性研究者育成の課題と方策:欧米での経験に学ぶ」が開催されました。

 このセミナーでは、より多くの女性が研究者の道を選び、そこで十分な力を発揮するための環境づくりについて、女性研究者として第一線で活躍されているMary C. Brinton先生とRenée Adams先生による講演、そしてイベント参加者との活発な議論が行われました。

・当日のスケジュール

10:00 開会挨拶 星岳雄(東京大学大学院経済学研究科長)

10:05 来賓挨拶 森まさこ(参議院議員、内閣総理大臣補佐官(女性活躍担当))

10:15 講演 Mary C. Brinton (Director, Reischauer Institute, Harvard University)

10:40 講演 Renée Adams (Professor of Finance Saïd Business School, University of Oxford)

11:05 質疑応答

11:20 総論・閉会の辞 林香里(東京大学理事・副学長)

開会挨拶 星岳雄(東京大学大学院経済学研究科長)

 はじめに、星岳雄(東京大学大学院研究科長) から開会挨拶がありました。本イベントは、東京大学が掲げる女性リーダー育成に向けた施策「UTokyo 男女⁺協働改革#WeChange」の一環であり、アメリカとヨーロッパの学術機関でのダイバーシティ推進活動や経験から学びを得るという趣旨が説明され、本イベントの協賛団体や実現に尽力した関係者への謝辞が述べられました。

来賓挨拶 森まさこ(参議院議員、内閣総理大臣補佐官(女性活躍担当))

 続いて、来賓挨拶として、参議院議員、内閣総理大臣補佐官(女性活躍担当) である森まさこ氏からビデオメッセージが寄せられました。国際女性デーにちなんでミモザの花を身につけ、Brinton先生のご著作「縛られる日本人」について言及し、地方の女性の都会への流出を是正し、日本の女性活躍、少子化に取り組んでいきたいとの意向を示されました。

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(ビデオメッセージの画像)

講演 Mary C. Brinton (Director, Reischauer Institute, Harvard University)

 講演では、まず、ハーバード大学の日本社会の労働問題の専門家である Mary C. Brinton教授 に、「アカデミアでのジェンダーパリティ達成:米国の視点から」とのタイトルでアメリカの大学の状況についてお話いただきました。

「終身在職権を持たない女性大学教員」

 アメリカの博士課程のあつ機関では、一定の条件を満たせば任期付きの身分から終身在職権が得られる「Tenure Track System」制度もとで働く女性の割合が36.3%と低くなっています。このような状況の改善策として、女性のキャリア育成を強化したり、学部長や学科長が積極的に関わるプログラムを大学側が開催したりすることが有効であるという研究結果を紹介されました。また、Brinton教授がシカゴ大学で助教として働いていた時に、最年少そして唯一の女性として、年齢の離れた著名な男性教授に自分の意見を述べ、議論する機会を得たことが学者として成長する機会になったということです。

イベントレポート「国際女性デー記念-女性研究者キャリアアップ支援FDセミナー-女性研究者育成の課題と方策:欧米での経験に学ぶ」-3

「ハーバード大学の取り組み」

 ハーバード大学では、女性が大学院から職位を得るまでのパイプライン作りや、外部から女性を招聘するといった取り組みを積極的に行なっていますが、問題解決には時間がかかりそうです。しかし、状況は少しずつ好転しています。今年の6月からアイビーリーグ(アメリカ合衆国東部の私立大学8校)の4分の3の大学で、学長として多様な専門分野の女性が起用され、ジェンダー平等の実現に向け着実に進歩しています。

講演 Renée Adams (Professor of Finance Saïd Business School, University of Oxford)

 続いて、オックスフォード大学の経済政策の専門家であるRenée Adams 教授により、「ジェンダー平等はサイエンスにとっても利益になる」との題目で講演が行われました。

「ジェンダー平等が科学者の構成比率を変える」

女性が労働市場に参加すればするほど、科学分野でも女性比率は増えていますが、専門性が高い分野ほど女性の比率が少ないという現状について紹介がありました。また、このような現場では、女性研究者がジェンダー平等への取り組みが活発で働きやすい制度が充実した国に移住しているということも考えられます。

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「女性にとっていいことは科学にとっても有益である」

 仕事への満足感、意見を発信できる自由、希望の分野で研究できるような人材の割り当てといった三つの指標を用いた研究から、女性が活躍する分野では、自分の意見を発信しやすくなるだけでなく、違う分野への挑戦も容易になり、仕事への満足感が高くなるという知見を紹介されました。また、市場の原理(市場が過不足やアンバランスさなどを自ら調整し最適化すること)が働けば、差別がなくなり科学分野の女性比率が上昇するということも主張されました。

 Adams教授は、女性活躍のために多くの政策が実施されているが、効果的なものが少ないために、女性に対する反発が起きているという問題も視野に入れながら、国が新たな制度を取り入れることで社会が変わり、そして科学分野も変えていく必要性があるといいます。さらに、ジェンダー平等に関して対話の場を設け、問題提起することへの障壁をなくしていくべきだと述べました。

質疑応答

 質疑応答のセッションでは、参加者からBrinton教授、Adams教授の講演に対して、様々な角度から質問が寄せられました。Brinton教授は、任期付きの仕事をしながら子育てをしたご自身の経験をもとに、無意識の差別に対して、正直な意見が交換できる気軽な対話の場を通して自覚を導く必要があると述べ、Adams教授は、大学側のリーダーシッププログラムや論文数に基づく評価の問題点を指摘しました。

総論・閉会の辞 林香里(東京大学理事・副学長)

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 イベントの最後に東京大学・林理事・副学長より、Brinton教授、Adams教授への謝辞と東京大学のジェンダー平等実現に向けた取り組みである、「UTokyo 男女⁺協働改革#WeChange」についての紹介がありました。林理事・副学長は、この取り組みを通じて、東京大学に定着した男性的価値観に東大の構成員それぞれが問題意識を持って対処し、本日の講演内容も参考にしつつ、多様な価値観についての対話ができる開かれたキャンパスを作っていきたいと述べました。

※詳細は英語版レポートをご覧ください。

リポート/学生ライター:杉 美憂(教養学部2年)

構成・写真:男女共同参画室